とっておきの東北(14) 野天風呂 川原毛大湯滝

温泉に足を入れ、徐々に身を湯船に沈めるときの楽しみがあります。 　「アーァ」「ファヒー」「イィイー」 　湯が身体にしみて、温泉の気持ちよさに思わず出てくる言葉です。とくに山歩きのあとは堪えられません。ジワァーと広がる快感を思い切り口に出すのです。いざ活字で表すとなるとむずかしい言葉？です。 　しかし、いつのころからかこれらの言葉を意識して発して身を湯に沈めるようになってきたな、と面白い発見をしました。 　さあこれから快楽が始まるぞ､楽しむぞ、という自分への合図なのかもしれません。自分の体からどんな言葉が出てくるのか楽しみでもあります。 　首まで湯につかるまでの短い間にどれだけへんてこな言葉を口に出すか、もう一人の自分が観察しているようでもあります。 　いまでは、これなしでは湯に入れません。オジサンになった証拠だとも。確かにそうです。若いころは口にしなかったはずです。でもそれでいっそうお湯を楽しめるのですから、いうことありません。 　ただ友達同士で湯に入るときは、先にこれらの言葉を発することです。そうすると不思議に相手は発しないものです。先を越された､と思うのでしょうか。先手必勝ーほんとうかな、と首をかしげる方はお試しください。 　秋田県の南東の端に皆さんよくご存じの虎毛山があり、その北に高松岳があります。麓には柔白色の泥湯があり、そこらか西へ少し歩くと青森県の恐山､富山県の立山と並んで日本三大霊場の一つに数えらる川原毛地獄があります。 　全山灰白色で、荒々しい岩肌からは硫黄ガスを噴出し、まるで地獄のように荒涼とした風景が広がります。そこに滝が天然温泉となっている川原毛大湯滝があります。 　露天風呂好きにはあこがれのところです。話の種にも近くに行ったときは立ち寄ってください。 　約１�`上流で湧き出しているお湯と沢水が合流し、２０�bの高さから落下する、日本一の湯の滝です。７月上旬〜９月上旬は、滝壷が天然の露天風呂として親しまれ、利用者が絶えません。「温泉」というよりも「川遊び」感覚です。観光客が常に訪れるため、露天風呂利用の際は水着を着用したほうがよいでしょう。脱衣所もあります。帰りは険しい険しい山道です。 　ぼくが行ったのは秋だったので肌寒い思いをしました。湯冷めをして風邪などひかぬよう、くれぐれもご注意を。 BACK　HOME　NEXT