とっておきの東北(番外) 野天風呂 祖母谷温泉

東北ではありませんが､ぼくがこれまでにいちばん感激し､思い出に残る野天風呂は「祖母谷温泉の川湯」です。ワイルドです。大自然の懐に抱かれ、時の過ぎるの忘れてしまいます。 　「ばばだに」と聞いただけでも怖気立ちますが､言葉とは裏腹にそこは温泉好きには極楽､快楽を味わえる天国です。 　場所は富山県。黒部峡谷トロッコ鉄道の宇奈月から終点の欅平で下車、そこから約一時間ほど歩くと祖母谷温泉があります。 　もう1０年近く前になりますか､甲府の新聞社と地元富山の新聞社に勤める友人とぼくの３人で立山を歩き、宇奈月温泉に泊まり、翌日はぼくがいい所に連れて行ってあげるよ、といって案内しました。地元の新聞社に勤める山好きの友人は初めてで、知らなかったといいます。 　黒部トロッコ鉄道の沿線には温泉が多く､「鐘釣温泉」では河原を掘るとお湯が湧き出て川湯を楽しむことができます。ただ観光客が多いのでちょっと気をつかい、思い切り楽しむというわけにはいきません。終点の欅平から祖母谷温泉に向かう途中にも「名剣温泉」があります。 　祖母谷温泉は最奥に位置します。一軒屋で旅館というより山小屋です。白馬岳からここに下山するルートがあります。登山口はすぐそこです。この小屋にはコンクリートで固めた湯舟がありますが、どうも質素というよりも素っ気無いつくりです。 　ここからほんの少し登山口のほうへ行くと右手に河原が現れます。すぐ目の前の川底から熱湯が湧き出しているのを見ることができます。 　河原の石で湯船を作れば露天風呂がすぐに完成ですが､すでに川の中にいい具合の湯舟が２、３できています。 　さあ、だれの目をはばかることはありません。だれもいないのだから。すべてを脱ぎ捨てて川に入ります。中年男たちが無邪気に遊びます。 　川の水を引いていい湯加減です。ザックのビールで乾杯。すぐに飲み干してしまい、あわてて服を着て祖母谷温泉にビールを買いに行きました。相当飲んだ記憶があります。お湯につかりながら飲むのですから体に入るとすぐに汗になります。次から次にビールに手が伸びます。 　温泉にのぼせたら脇を流れる川に身を横たえて身体を冷やします。これがいいのです。この繰り返しで、半日ぐらい遊んでしまいました。 　それほど気持ちのいい所ですから、こんどは白馬岳から祖母谷温泉へ下山して再訪の機会を窺っているのですが、なかなか実現できないでいます。 BACK　HOME　NEXT 祖母谷温泉の快楽（１９９４．９．２）