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石棚山稜から檜洞丸 1601㍍ 箒沢公園橋－石棚山－檜洞丸－ゴーラ沢出合-西丹沢自然教室 ２００９年５月２７日 曇り時々晴れ |
若いころは気にも留めなかったシロヤシオ。それがいまや気になって仕方ない存在になっている。このところ毎年シロヤシオを探訪するのが楽しみになった。檜洞丸のシロヤシオに会いに行くのは10数年ぶりになる。あいにくと今年はハズレの年だという。全般ではそうだったが、結果的にはコース取りがよかったのか、石棚山稜に私を満足させる満開の大木が待っていた。白い清楚な花が覆いかぶさるように包んでくれた。今年も会えたんだ、その喜びをかみしめた。 |
恋をしているなと思う。このシロヤシオに対する思いは素敵な女性に抱く感情にほかならない。この数年は5月に入ると今年もシロヤシオに会えるんだと思うと心が弾むのが自分にもわかる。今年は彼女に会いにどの山にしようか、ことしの咲き具合はどうなのか、満開の彼女に会うにはいつがいいのかと、悶々として悩ましい日々を送ることになる。 今年は10数年ぶりに檜洞丸にした。咲き具合の事前情報をネットで見る限り「今年はよくない」という。友人からも同じ情報が来た。5月下旬の土曜日と決めた。ところが用事ができた。その日を逃すともう会えない。それならばとすぐに平日に切り替えた。なにがなんでも会いに行くというこの一途な思い詰めた気持ちは、やはり恋というしかない。 恋敵がいた。シロヤシオに恋をしているのは私ばかりではなかった。新松田駅から西丹沢行きのバス停は行列ができていた。私は最後尾だった。「きょうは平日だよな」。このバス停の光景が信じられなかった。だれもいない山の中で彼女に密会できるなんていいんじゃないかと夢見ていたのだが、それが瞬時に潰えた。それよりも座れるかどうかが心配になってきた。座れた。空席は残り2席、満員だった。いくら檜洞丸がシロヤシオの名所とはいえ平日でもこの状態かと、てっきり静かな山旅を期待していただけにがっくりきた。 しかし、この混雑ぶりを見てほくそえんでいた。コース取りがうまくいったからである。登りを石棚山稜から檜洞丸、下りは様子を見て犬越路またはツツジ新道と決めていた。ほとんどの人が多分ツツジ新道を行くから石棚山稜コースは静かな山旅ができるなと。結果的にこのコースでこの日一番のシロヤシオに出会えた。 石棚山稜はずっとひとりきりだった。石棚山前後がすばらしい。滴るような新緑が日差しを透かして輝いている。下草がないのでブナをはじめとする落葉広葉樹の一本一本の立ち姿が美しい。まるで公園のように整備されているかのようにみえる。 まだシロヤシオに会えないでいる。歩を進めるとミツバツツジの赤い花が落ちていた。さらに白い花が落ちていた。見上げるとシロヤシオの木。すでに散ってしまっていた。少し心配になる。高度を上げて行くと、まだ散らないで木に残る白い花が出てきた。もうすぐだな。わくわくしてきた。そしてとうとう会えた。登山道から離れた右側にそれはあった。駆け寄った。満開だった。大きな木だった。とうとう出会えたという思いで眺めた。じつにすばらしい。満足の一本だった。それからツツジ新道との出合までにさらにもう一本満足のいくシロヤシオが待っていてくれた。 私のこの数年は連続して惚れ惚れするほどの美しい姿のシロヤシオに会ってきた。それらと比べると今年の檜洞丸のシロヤシオはもの足りなかった。事前情報どおりだった。たしかに全般に低調だったが、石棚山稜でいまが盛りの２本に出会えたことが幸運だった。白い花で身を包んだ姿は清楚で風に揺らぐ姿はかすかな色香を感じさせる。私を魅了するのに十分な美しさだった。 山頂は一転、ミツバツツジが艶やかさを競っていた。辺り一面を赤く染めていた。とくに犬越路に入るところの2本のミツバツツジは妖艶さを感じさせるほど赤紫色がひときわ濃く目立つ。丹沢はシロヤシオとミツバツツジが同時に咲く。後者は派手で目を引くがその美しさが心に響いてこない。シロヤシオの静かなたたずまいが心を落ち着かせてくれる。ある思いをシロヤシオに重ねているのだと思う。 下山は犬越路かツツジ新道か。犬越路から夫婦が登ってきた。花はどうでしたかと尋ねたら「全然だめだった」というから、すぐにツツジ新道を下山に選んだ。
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